令和5年度事業の概況

我が国経済は、コロナ禍の影響により大幅に景気が落ち込んだ後、令和5年5月、新型コロナ感染症法上の位置付けが5類感染症に移行したことによる国内需要の高まり及び円安を背景としたインバウンド需要の影響等により、徐々に経済社会活動の正常化が進みつつある。しかしながら、長引くロシアによるウクライナ軍事侵攻に加え、イスラエル・ハマス紛争が激化する等世界情勢が混沌とする中、世界的なエネルギー・食料価格の物価上昇や円安傾向にも歯止めがかからず、我が国においても40年ぶりの物価上昇など日本経済や国民生活に深刻な影響を与えた。そのうえ、物価高による消費下押しと人手不足による企業の設備投資の遅延に加え、令和6年元日に発生した能登半島地震の被災地支援も新たに必要となり、景気回復が足踏みをしている状況下にある。

内航海運業界では、令和3年8月に暫定措置事業が終了し、自由なタイミングで船舶建造ができるようにはなったが、令和5年3月末現在の内航船腹量の船齢別構成をみると、船齢14年以上の老齢船は、隻数比68.8%、総トン数比は50.9%を占めている。船齢別平均船型についても、14年未満が1,000総トンを超えているものに対し、14年以上の老齢船が659総トンとなっており、小型船ほど老齢化が進んでいるのが現状である。内航船の老齢船比率が約7割という状況下、代替建造の促進を求めていかなければならないにもかかわらず、依然進まない要因として、運賃・用船料が思うように改善しない状況に加えて、人手不足や働き方改革に伴う人件費の上昇、鋼材価格の高騰などで船価が上昇したことによる船主の建造意欲の低下が考えられる。総連合会実施の令和4年度定期用船料調査結果によると、希望する用船料と現状の用船料との比較では、ほぼすべての船型がマイナスとなっており、変わらず現状と希望が乖離している状況にある。

一方、内航船員の年齢構成については、50歳以上が5割を超え高齢化が進んでおり、令和4年10月時点で内航船員数は、21,092名であり、昨年比410名の減員となった。平成26年から令和3年まで8年間船員数は増加していたが、ここにきて減少に転じており、減員410名の内、約320名の年齢が50歳以上であることから、内航船員の高齢者退職の段階にあることがうかがえる。船舶の高齢化と船員の高齢化、この二つの高齢化が内航海運の喫緊の課題となっており、安全・安定輸送を目指すには、厳しい環境下に於いても運賃・用船料の改善を推進していくことが不可欠であり重要な命題となっている。コンプライアンスや環境問題に対する意識が強まっている昨今、内航船の安全運航の確保には自らの製品等を運ぶ荷主にも関与が求められる状況にあることから、荷主、船主、オペレーター等関係者が、一丸となって危機意識を共有していかなければならない。

今後の船員確保・育成対策に資するため、当連合会は総連合会と協力し、商船系高等専門学校生を対象とした3級海技士の養成及び海技教育機構の学生を対象とした4級海技士の養成並びに水産系高校の学生を対象とした4級・5級海技士の養成についても対策支援を行った。多様な人材が内航海運へ導入されるよう、船員養成機関卒業生以外の一般社会人からの内航船員への採用を促進する為、海洋共育センターが実施する民間完結型6級海技士(航海・機関)養成課程等の効率的な運用等を当連合会も全面的に支援しており、将来を見据えた対応を図っている。令和5年10月に設立された「6級海技士養成奨学金制度」については、関係団体と密接な連携を取りつつ、広く活用し、養成者数の拡大を目指す。さらに、平成30年8月より実施の「船員育成船舶認定制度」については、内航海運事業者にとって有益な取り組みであることから、同制度の活用を推進し、船員の確保・育成に努めている。

令和5年度実施の内航貨物船員計画雇用促進助成制度では、当連合会に於いては、9者18名を対象に約353万円が交付され、若年船員育成への支援を行った。

又、船員の働き方改革に伴い、改正法の施行により、船舶所有者に船員の労働時間を管理する「労務管理責任者」を選任する義務が課せられたことから、「労務管理責任者講習」を令和4年度に引き続き、令和5年度も以下の通り実施した。全国3か所で実施、221人が受講し、内当連合会所属事業者は109人であった。尚、令和5年4月には労働時間規制の例外についての船員法等の改正が施行され、労働時間の上限(14時間/日、72時間/週)や休息時間規制が遵守できるよう労務管理記録簿の記載等に特化した「労務管理記録簿実務講習」を以下の通り実施した。全国3か所で実施、183人が受講し、内当連合会所属の事業者は83人であった。又、船員の健康確保に関する制度が令和5年4月に施行され、令和元年6月に改正された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、令和4年4月からは全事業者に対し、雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けされたことから、「健康管理・ハラスメント・助成金セミナー」を以下の通り実施した。全国6か所で実施、142人が受講し、内当連合会所属事業者は44人であった。

STCW基本訓練対策については、組合員の船員向けの訓練実施について、日本船員雇用促進センター(SECOJ)と調整を行い、内航船員の訓練実施人数の拡大を目指し、空白地域の解消や訓練料金の低廉化のため、総連合会と共に当連合会はこれらを支援している。令和5年度実績は、全国3か所で実施、35人が受講した。

尚、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けて、令和5年度においてもPCR検査等を実施した組合員に対し、その費用の一部に対し助成金を交付した。当連合会に於いては、35者を対象に約525万円が交付され、事業者負担軽減に大きく貢献した。

又、内航海運の安定的な船員確保育成を図ることを目的とした「船員確保チャレンジ事業」を実施し、各地域の内航船員確保対策協議会、5組合及び当連合会会員組合・支部等に支援することとした。令和5年度実績は、承認15件、内当連合会所属の申請者(内航船員確保対策協議会含む)は、9件であった。

以上のように当連合会は、組合員の要望・国の施策実施等多様な問題に対応し、理事会等の審議を通じて意見集約を図り、総連合会をはじめとする関係機関等への具申を行った。

 

以 上