No.172:沖縄航路のカボタージュ緩和を認める 前原国交相、沿岸輸送特許で自由貿易地域と本土間に限定

平成22年3月27日(土)Vol.172

沖縄航路のカボタージュ緩和を認める

前原国交相、沿岸輸送特許で自由貿易地域と本土間に限定

 
前原誠司・国土交通省は3月26日、沖縄県から要望されていた沖縄-本土間の船舶輸送のカボタージュ(外国船の国内航路運航規制)緩和について、特別自由貿易地域(うるま市)と自由貿易地域(那覇市)に限り緩和し、日本船社が運航する外国籍船、2国間の相互主義に基づく国の外国船舶による輸送に限り認めると発表した。

沖縄県は昨年11月12日付で、特別自由貿易地域と自由貿易地域を対象に、カボタージュの緩和を求める構造改革特区を内閣府に申請していた。沖縄県では申請の背景として、「沖縄-本土間の船舶輸送に運賃の安い外国船が参入することで物流コスト低減が期待でき、実現すれば物流費の高さが県産品移出の障害とされていた長年の課題が解消する。部品、製品の輸送経費も低減するため、製造業の立地・集積にも効果が期待でき、全日空の国際貨物基地事業との相乗効果で製造業の誘致にも弾みがつく上、県内物価の低減効果もあり、県経済へのメリットが大きい」としていた。

沖縄県ではこれまでにも、構造改革特区構想の一環としてカボタージュ緩和を求めてきたが、来年度で期限が切れる沖縄振興特別措置法の改定継続を要望する一方、自立経済振興のためにも今回は是非ともこれを実現したいと県挙げて運動展開してきた。

カボタージュは、主要各国が安全保障や国内海運保護の観点から、なんらかの形で国内の海上、陸上、鉄道、航空輸送に一定の規制をしており、我が国では日日本国籍船(船舶法第3条)月日本の会社法により設立した会社で、代表の全員及び業務執行役員の3分の2以上が日本国民の船舶(船舶法第1条)火日本人乗組員による運航(閣議決定)としているが、アメリカではこれに「自国建造の船舶」の規制をつけている。

カボタージュ緩和はこれまで、米軍貨物を除いて認められたことはなく、例外として阪神淡路大震災後の物流体制整備の遅れなどから、外国船に一部「沿岸輸送特許」として認められてきた。

内航業界では、こうした動きに危機感をいだき、国土交通省及び関係政府機関にカボタージュ緩和反対の陳情をする一方、上野孝・内航総連合会会長らが仲井眞弘多・沖縄県知事始め地元関係者に直接働きかけていた。

沖縄県では、県内海運業者との競合を避けるため、適用地域を特別自由貿易地域と自由貿易地域及びその周辺に限定。輸送は国が認めた加工貿易型企業の原料輸出入、加工製品の本土・海外出荷などに限るとしていたが、国交省では今回の措置について、「構造改革特区としてではなく、船舶法第3条に基づく国土交通大臣の特許(沿岸輸送特許)」としており、福岡県、山口県、兵庫県、神奈川県などからこれまでに要望されてきた「構造改革特区としてのカボタージュ緩和」と一線を画している。

前原国交相の会見要旨は次の通り。(3月26日・国土交通省発表文抜粋)

【前原大臣発言】

◇沖縄県における外国船籍での沿岸輸送について

沖縄県における外国籍船での沿岸輸送についてということであります。

皆さん方はカボタージュというお話を聞かれたことがあると思いますが、基本的には自国内での貨物とか旅客の運送というものを自国船籍に限るというものでありますけれども、この度、沖縄の地理的特性と、それから特別自由貿易地域などの制度の趣旨を踏まえて一部外国船籍による輸送を特別自由貿易地域等と本土の間での輸送を認めるということに致します。

これは、先般、私が沖縄県に行った時に仲井眞知事さんから直接要望を受けていた点でございます。

なお、この本措置は、構造改革特区として行う訳ではございません。

これは船舶法第3条に基づく国土交通大臣の特許として実施をさせて頂くということであります。

認める対象は、日本の船舶運航事業者が運航する外国籍船、外航海運事業者、または相互主義というのが大事でございまして、2国間の相互主義に基づく外国籍船、つまりは自らの国もカボタージュの例外を認めているといったところを選ぶということでありまして、繰り返しになりますけれども、日本の船舶運航事業者が運航する外国籍船と、そして2国間の相互主義に基づく国のみに限るということでございます。

上野内航総連合会会長声明文

今回のカボタージュの一部解禁を受けて3月26日、上野孝内航総連会長は次の通り、声明文を発表した。

沖縄県は昨年11月、内閣府特区室に対して沖縄自由貿易地域等と本土間の輸送にコストの安い外国船を使用出来るようカボタージュ規制の緩和を求めて同地域を構造改革特区とする申請を出しました。これに対し、国土交通省は、数回にわたり受け入れられない旨回答してきましたが、3月26日に至り、前原国土交通大臣は、この申請を部分的に受け入れて沿岸特許を付与することを表明しました。

内航総連合会としては、世界の共通ルールとなっているカボタージュ規制の維持は、生活物資の安定輸送、日本人船員の雇用、国の治安・安全保障、安全運航等の観点から最重要課題としてとらえてきました。そして、海上輸送に依存する比率の高い世界有数の内航海運国である日本において、カボタージュ規制を緩めるべきでないと従来から主張してきたところであります。

特に、今回の申請は、現在、質の高い内航RORO船及びコンテナ船、あるいはタンカー等によるサービスが提供できている本土~沖縄航路において、恒常的に輸送されている貨物に対してカボタージュ規制を緩和し、外国船にこれらの輸送を解放するというもので、沖縄振興問題の重要性は十分理解するものの、我々として到底容認できるものではありませんでした。

このため、対案として、いきなりカボタージュ規制の緩和を図るという方法でなく、沖縄振興のために官民を挙げた支援措置等により輸送コストの低減を図る社会実験等を行うことでまず対応すべきであり、それには内航業界としても最大限協力すると主張してきました。

今回、我々のその様な主張が認められず、沖縄を巡る政治的判断により沿岸特許によるカボタージュ規制の緩和が実施されることとなったことは極めて遺憾であり残念な結果であります。

今後、内航業界としては、このように内航船で十分対応できる恒常的な輸送に対して安易に沿岸特許を与えることには徹底して反対していくことは当然ですが、輸送実績等について情報開示することを当局に求めるとともに国民の皆様がグローバルスタンダードであるカボタージュ規制の必要性を理解して頂けるよう、一層の広報活動に努めて行かなければならないと考えております。

【参考】船舶法 抜粋

一  日本ノ官庁又ハ公署ノ所有ニ属スル船舶

二  日本国民ノ所有ニ属スル船舶

三  日本ノ法令ニ依リ設立シタル会社ニシテ其代表者ノ全員及ビ業務ヲ執行スル役員ノ三分ノ二以上ガ日本国民ナルモノノ所有ニ属スル船舶

四  前号ニ掲ゲタル法人以外ノ法人ニシテ日本ノ法令ニ依リ設立シ其代表者ノ全員ガ日本国民ナルモノノ所有ニ属スル船舶

第二条  (略)

第三条  日本船舶ニ非サレハ不開港場ニ寄港シ又ハ日本各港ノ間ニ於テ物品又ハ旅客ノ運送ヲ為スコトヲ得ス但法律若クハ条約ニ別段ノ定アルトキ、海難若クハ捕獲ヲ避ケントスルトキ又ハ国土交通大臣ノ特許ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス

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