平成22年5月21日(金)Vol.185
国土交通省成長戦略 「海洋分野」(全文)
「海洋立国日本の復権」に向けて
国土交通省は5月17日、成長戦略会議を開き日海洋月観光火航空水国際展開・官民連携木住宅・都市、5分野の成長戦略最終報告書をまとめた。以下、「海洋分野」の全文を掲載する。
内航総連合会は5月20日の理事会で、国際コンテナを輸送する2,500重量トン以上の内航コンテナフィダー船(セルガイド付き)について、日新造船の建造納付金単価を対象トン当り24,000円とする月外航コンテナ船の内航転用を5年間限定で認め転用納付金をゼロとする火現行の「7港まで」とする寄港地制限を適用しない水国交省の国際コンテナ戦略港を発着すること、などを決めたが、国交省の今回の成長戦略最終報告がその背景にある。
国土交通省成長戦略 「海洋分野」(全文)
「海洋立国日本の復権」に向けて
将来目指す姿・あるべき姿
しかしながら、現状では日本の海洋インフラは危機的状況にあると言わざるを得ない。国際的にも、港湾が物流を支える戦略的に重要なインフラであることは強く認識されている。そのため、各国が競い合って、戦略的により使い勝手の良い港湾、より安価な港湾サービスを提供しているのが実状である。そのような中にあって、我が国の港湾は大きく出遅れており、国際的な競争力を失いつつある。今後、世界の成長を我が国に取り込んでいくためには、抜本的な改善策が求められている。
海洋インフラの国際的競争力を向上させるためには、世界に伍していけるだけのハード・ソフト両面でのインフラ整備が欠かせない。そして、次のような海洋国家日本が持つ潜在的なメリットを活かして、強いところを伸ばしていく戦略が必要である。
・日本が成長著しいアジアの中の経済大国として地政学上の優位性がある。すなわち、極東ロシア、中国、韓国各国ともバランスよく近距離であり連携を深め易く、東南アジア諸国とも海路による繋がりが深い。また、アジアの北米との玄関口になり得る位置にある。
・日本の海洋インフラ(港湾・海運・造船)は一体となって海洋先進国として永年世界の海洋インフラをリードしてきた経験があり、サービスの質や安全性の面で世界に秀でた力量がある。
具体的には、海洋インフラの基礎となる港湾については、「選択と集中」を行うとともに、「集中」された港湾においては、「民」の視点による戦略的な経営ができるよう政策の転換を図る。そして、そこを拠点にモノやヒトの流れが一層効率的かつ円滑になるよう、内航の効率化等、総合的な対策を実施する。そして、世界と日本との間で実際にモノやヒトを運ぶ国際海運については、その「強さ」を最大限発揮でき、自由で革新的な活動ができるよう規制改革などの環境整備を行う。
また、我が国は、技術力において特に秀でた有数の造船国家でもある。造船・舶用工業は海洋インフラの基軸であるとともに広大なEEZ を有する我が国の海洋開発への技術的応用も期待されている。また、海運をはじめその他の海事・港湾関連の数多くの産業と一体となり、いわゆる海事クラスターとして巨大市場を形成している。
さらに、海洋分野のマーケットは基本的に世界規模であり、競争が世界市場において激しく行われている。海洋インフラは、海運、港湾、造船・舶用工業といった関係する分野の総合力が国際的な競争力を発揮するとされる。したがって、制度や税制などについて適切な競争条件の整備を図ることがとりわけ重要な課題となる。これにより、我が国の海洋インフラは自らの努力と能力により、国際的競争力を向上させ、世界市場での一層の活躍が期待できる。
施策の方向性
1)施策の基本スタンス
政府の役割は、インフラ整備とルール形成。それ以外は、できるだけ民間に任せ、自由な競争環境の中で創意工夫をさせ、成長を促進させるとの基本スタンスで施策を展開する。
2)施策のポイント
◇海洋インフラの利便性を抜本的に改善
海洋インフラの利便性を抜本的に改善することにより、トータルコストの低下、経済活動の促進、成長の拡大を図る。
具体的には、次の方向性で施策に取り組む。
・港湾の選択と集中
・民間の知恵とガバナンスを積極的に導入(例:港湾経営の民営化)
・制度改革による自由な経済活動の促進(例:内航フィーダーに係る暫定措置事業の改善)
◇国際ルール形成への戦略的な関与
国際ルール形成への戦略的な関与により、日本の国際的地位を高めるとともに世界経済の成長を促進する。
具体的には、次の方向性で施策に取り組む。
・税制も含めて我が国海運企業が国際市場において不利にならないような政策の展開(例:トン数標準税制の改善)
・環境対策等の国際的ルール作りで積極的に貢献(例:船舶に関する環境規制)
・海洋開発の積極的推進(例:安全保障、EEZ の保全の視点)
・国際物流のICT 化に向け、国際基準に準拠したシステム開発を推進(例:コンテナ物流情報サービス(Colins))
テーマ別の政策検討
優先的に実施すべき事項
1.港湾機能の抜本的改善
大型化が進むコンテナ船、バルク貨物輸送船に対応し、アジア主要国と遜色のないコスト・サービスの実現を目指すため、「選択」と「集中」に基づいた国際コンテナ戦略港湾、国際バルク戦略港湾の選定を行う。
国際コンテナ戦略港湾について、「民」の視点の港湾経営、コスト低減策、国内貨物の集荷策などの具体性、計画性、実現性など今後の伸びしろを重視する選定基準により、平成22 年6 月頃に国際コンテナ戦略港湾の選定を行うとともに海運・トラック・鉄道によるフィーダー網の抜本的強化に向けた施策等を行う。また、選定された国際コンテナ戦略港湾の経営にあたっては、民間企業が出資・融資する「港湾経営主体」を設立し、「民」の視点による戦略的経営の実現等により公設民営化等を通じ、港湾コストの低減を図る。
国際バルク戦略港湾については、我が国産業や国民生活に必要不可欠な資源・エネルギー・食糧等の物資の安定的かつ安価に供給するため、穀物、鉄鉱石、石炭の貨物毎に平成22 年末頃に国際バルク戦略港湾の選定を行うとともに、国際バルク貨物の大量一括調達のための企業連携を促進する。
2.外航海運の国際競争力強化
日本商船隊が本来の力を発揮し、自立的な競争力を確保するため、さらには、それにより世界の成長産業である外航海運の伸びを日本の成長に取り込むため、諸外国と比較して負担の重い状況にあるトン数標準税制などの外航海運税制について国際競争条件均衡化の観点から戦略的な見直しに取組む。(平成22 年度から取り組む)
特.港湾力の発揮
港湾は海洋インフラの要であり、効率的で使い勝手の良い港湾の実現は、我が国成長にとって必要不可欠である。しかし現状では、利用者にとって使い勝手が良くコストの安い港湾サービスが十分に実現しているとは言い難い。
また、国際的にみると、港湾は戦略的に重要なインフラであり、各国が競い合ってより良い港湾サービスを提供しているのが実状である。そのような中にあって、我が国の港湾は国際的な競争力を失いつつある。今後、世界の成長を我が国に取り込んでいくためには、抜本的な改善策が求められている。
そのためには、政策の大胆な選択と集中により、港湾インフラの使い勝手を国際的に競争力のある水準にまで引き上げる必要がある。しかし、設備面に対して資金を投入するだけでは真に国際競争力のある港湾サービスは実現し得ない。民間の知恵と創意工夫を導入するとともに、必要な制度改革・規制改革を行って、内航サービスも含めた港湾サービスの抜本的向上をはかっていく必要がある。
つまり、
○選択と集中とともに「民」の視点で港湾経営を行うことで、低コストで効率的な港湾の運営を実現して、港湾の国際競争力を確保し、
○製造業等の荷主企業も日本を拠点とした事業展開が比較優位となるよう、規制改革等によって、内航も含め安価で高品質な港湾サービス提供を実現させる。
○物流だけでなく、旅客の流れも促進されるような港湾のサービスを提供し、観光振興ならびに後背地等の地域振興にも貢献できるような港湾を目指す。
また、これらの実現に必要な制度改正を行うため、平成23 年通常国会における法改正の検討が必要である。
以下、コンテナ、バルク、旅客と運送対象別に詳細に検討していく。
1.コンテナ
1)将来の姿、指標
・アジア諸国を含めた世界の成長を取り込み、我が国の成長に結び付けていくためには、世界各地との間に低コストでスピーディかつ多頻度、確実な輸送ネットワークを構築する必要がある。
・2015 年を目標に、国際コンテナ戦略港湾において、アジア主要港並みのサービスを実現させる。そのための具体的な指標として、アジア向けも含む日本全体の日本発着貨物の釜山等東アジア主要港でのトランシップ率1を現行の半分に縮減することを目指す。また、2020 年を目標として、アジア発着貨物の国際コンテナ戦略港湾におけるトランシップを促進し、東アジア主要港として選択される港湾を目指す。
2)現状の課題・問題点
・ 経済のグローバル化にともない、世界的な海上輸送量はアジア~欧米間を中心に急拡大している。(世界の国際海上コンテナ荷動量について、1990 年と2007 年を比較すると、アジアと欧州間で約6倍、アジアと北米間で約4倍、欧州と北米間で約2倍に増加している) 。それに伴ってコンテナ輸送船の大型化が進んでいるが、我が国の港湾はそれに対応できていない。(現在、就航している最大級のコンテナ船に対応するために必要な岸壁水深は-18mであるが、我が国のコンテナ対応の岸壁の最大水深は-16mである。)一方、東アジアにおけるコンテナ港湾間競争は激化しており、その競争にも乗り遅れているのが現状である。このままでは、基幹航路のコンテナ船がほとんど我が国に就航しなくなってしまう可能性すらある。
・ これ以上我が国中枢港湾への基幹航路の寄港回数が減少すると、我が国産業にとって海上輸送の重要なインフラを欠くこととなり、結果として大きなコスト高や利便性の低下を招く。また、我が国の港湾システムがソフト面、ハード面において近諸国に立ち後れると、国内製造業の製品・半製品輸出において不利な状況となり、我が国産業の海外流出を加速させ、我が国そのものの国際競争力の衰退を招きかねない。
・ したがって、我が国産業に最適な国際コンテナ輸送サービスを提供するためには、フィーダー2輸送など国内輸送も含めた我が国港湾の国際競争力を向上させる必要がある。
・ しかも、平成18 年度に新たに供用を開始した釜山新港は、廉価な港湾コスト等高いサービス水準を武器に我が国にも攻勢をかけている。我が国から釜山港に国際トランシップされる貨物も増加していることから、時間的余裕はない。
・このため、世界最高水準のサービスレベルと十分な能力の港湾サービスを早期に提供する必要があり、さらなる「選択」と「集中」により、コンテナ貨物を取り扱う港湾の国際競争力を強化していく必要がある。
(個別課題)
・ 競争力低下の現状
内航海運も含めた日本の港湾サービスは、コストが高く利便性などの面で劣る点があることから、近隣諸国と比べ競争力が低く、その結果、釜山をはじめとする海外港へ日本発着のコンテナ貨物が吸い取られている(例えば、フィーダーに関するトータルのコストでは、釜山港トランシップの場合、我が国中枢港湾を利用した場合に比べ1~4割安と言われている)。
・港湾の課題
港湾については、ガントリークレーン等の整備や経営は基本的に地方公共団体が担っている。この点が、国際港湾間競争が激化するなか、効率的な港湾経営を進めるうえで、大きな課題となっている。国内外の民間企業と緊密な連携や折衝が不可欠なコンテナ港湾の経営は、一般行政の執行基準や手続きへの厳しい遵守が求められる公的セクターでなく、国際的なビジネスと同じ水準の迅速性、柔軟性、強靱性(タフさ)を実現すべく、「民」の視点による港湾経営を進める必要がある。
また、コンテナ船の大型化と国際港湾間競争が激化するなかでは、港湾内における貨物の集約や積み替えなどについて、一元的な総合利用調整が重要となる。しかし、現状では、ターミナルごとに運営がばらばらで、コンテナ港湾全体を効率的に一元的に経営できていない。
さらに、先進的な一部のターミナルを除き、伝統的な「船社-港運元請-港運下請」の強い結びつきが存在しており、ヤード間フェンスが設けられているなど、ガントリークレーン、バースウィンドウの効率的、機動的な運用が出来ておらず、港湾労働者の作 業協力がしにくいなど、運営の一体性に欠ける。
これらの点について、「民」の視点で一元的な戦略的経営を行うことにより、抜本的に改善していくことが必要である。
・ 内航フィーダーの課題
内航フィーダーについては、我が国の港湾という点を線としてつなぐ存在であり、港湾の国際競争力の向上に極めて重要な役割を果たす。内航フィーダーの効率性を高める等により海上輸送に係るコストを大きく低減させることは、港湾サービスを向上させる上で必要不可欠な課題である。
海上輸送コストを低減させるためには、内航フィーダー事業の抜本的な生産性向上、効率化が必要であり、そのためには、まずは内航フィーダー事業者による自助努力が求められる。特に内航海運の暫定措置事業は、船舶の大型化のコスト増を招いていることから、本来は、廃止も含めて早期の抜本的な改善が必要であろう。しかし、現状では収支相償からは程遠く事業者のみによる早期の廃止は困難である。したがって、まずは日本内航海運組合総連合会を中心に、業界としてこの問題に対する早期の改善策が求められる。
一方、内航フィーダー事業者の競争相手は韓国などの外航海運事業者であり、公租公課などの点で我が国内航フィーダー事業者は不利な状況に置かれているという指摘もある。
さらに、我が国の港湾の国際競争力の確保のためには、輸送コスト低減はもはや一刻の猶予も許されないという姿勢で、海上輸送を担う内航フィーダー事業者のみならず、行政をはじめ、荷役、港湾管理など内航フィーダーに関わる全ての関係者が総力を結集し、コスト低減に取り組む必要がある。
※ 内航フィーダーの効率化については、カボタージュ制度の解禁が内航フィーダーのコスト低減に資するとの意見があり、かなりの意見交換と議論が行われたが、外国企業に対して一方的に解禁することは国益を損なう恐れがあるとともに、国内安定輸送を阻害する要因になるとの意見も強くあった。
・情報共有の課題等
背後圏の荷主へのサービスの向上や、広域からの貨物の集荷を促進するためには、24時間化に向けたゲートオープン時間の拡大が課題である。また、貨物位置などサプライチェーンマネジメントの高度化を進める上での必要な情報が、荷主、ターミナルオペレーター、海貨業者、運送業者等の港湾物流関係者で共有されていないという課題もある。
3)課題に対応した政策案(港湾管理者等の提案を踏まえ、今後内容の充実を図る)
日 「選択」と「集中」に基づいた国際コンテナ戦略港湾の選定(1乃至2港に絞り込み)※平成22年6月頃
・国において、「国際コンテナ戦略港湾」の目指すべき姿や選定基準を2月に提示。現在、港湾管理者等により計画書の作成が進められており、6月頃に国際コンテナ戦略港湾を選定予定・現在の取扱貨物量よりも「民」の視点の港湾経営、コスト低減策、国内貨物の集荷策などの具体性、計画性、実現性など今後の「伸びしろ」を重視する選定基準を採用
月 選定された国際コンテナ戦略港湾において以下の総合対策を実施し、荷物の集約を図る。
1)「民」の視点による戦略的経営を実現し、港湾コスト3の低減
・コンテナ物流を一元的に経営し、民営化された埠頭公社を中心に民間企業が出資・融資するとともに、民間の有為な人材を擁する「港湾経営主体」を設立、コンテナ物流を一元的に経営(埠頭公社の民営化は一部先行実施)
・荷役機械の相互融通、作業体制の共同化等による複数ターミナルの一体運営4の推進(「調整会議」の設置等)
・民による創意工夫をこらした、国際競争力を有する港湾経営を実現するための環境整備(公設民営化の推進等)
・港湾経営主体が整備するガントリークレーン5・ロジスティックス基地6等に対する支援
・港湾経営主体の国際競争力強化のための支援(基幹航路7誘致、広域貨物集荷強化、24時間化推進、コスト低減施策等の実施に対する支援)
2)外貿と内貿が一体となって活用されるターミナルの形成促進
・戦略港湾において外貿と内貿が一体となった利用を推進するため、外貿8ターミナルと内貿9ターミナルが隣接するとともに一体運営を行うターミナルを確保
・埠頭間横持ち10流動等の円滑化を図るため、ハード・ソフトの埠頭間アクセスを強化
3)フィーダー網の抜本的強化に向けた施策
国際コンテナ戦略港湾のメリットを最大限生かせるようにフィーダー網の充実を図り、コストの大幅な低減につながるような、各種の抜本的な施策を行う。また、フィーダー網間の連携を図るとともに、関係者の総力を結集し、協同した取り組みを進める。
特に、内航フィーダーについては、港湾の国際競争力の向上に極めて重要な役割を果たす。よって、国際コンテナ戦略港湾における取り組みに遅れることなく内航フィーダーのコストが低減するように、行政をはじめ、海上輸送、荷役、港湾管理など内航フィーダーに関わる全ての関係者が、総合的な取り組みを行う。
・内航フィーダーコストの引き下げを促進するために、日本内航海運組合総連合会による、暫定措置事業に関する改善策(内航フィーダー船の船舶建造負担軽減の特例措置)の実施、内航フィーダーに係る燃料費や船舶関係経費の負担軽減(石油石炭税・固定資産税の軽減措置等)、あわせて輸送を担う内航フィーダー船、バージ11に対する経営効率化に対する支援を強化
・あわせて、内航フィーダーに係る港湾コスト低減を図るため、国際コンテナ戦略港湾とその港湾に貨物を集中させる地方の港湾双方の内航船用のターミナルへの支援強化
・鉄道フィーダーの抜本的強化のために、インランドデポ12等を形成
・トラックフィーダーの抜本的強化に向けて、トラック輸送のアクセス強化を図るとともにインランドデポ等を形成
・海上コンテナ貨物の円滑な輸送に資するロジスティックス基地・インランドデポ等の抜本的強化(料金の低廉化等)
4)その他荷主へのサービス向上
・ゲートオープン13時間拡大による24 時間化の推進
・電子化の推進による港湾手続きの更なる円滑化及びAEO 制度14など貿易手続の円滑化
・コンテナ物流情報を一元的に情報提供する「コンテナ物流情報サービス(Colins)」の中でコンテナ動静情報をインターネット上で共有するシステムを開発中(一部先行実施中)。
5)将来のコンテナ船大型化の進展と我が国における顕在化を見据えた、少なくとも現在就航している最大級のコンテナ船への対応が可能なターミナルの整備。
[クリアすべき問題点]
・「港湾経営主体」の経営の自由度と港湾の公共性確保の双方を担保するための公的主体の関与のあり方について、今後検討が必要
・港湾コストの低減や戦略的港湾経営の実現等については、関係者調整、必要な機能の確保、必要に応じた制度改正等が必要
2.バルク
1)将来の姿、指標
・バルクについても、大型船舶の活用等によりアジア主要港湾と比べて遜色のない輸送コスト・サービスを実現し、それにより我が国の産業や国民生活に必要不可欠な資源・エネルギー・食糧等の物資を安定的かつ安価に供給する。これにより、国際バルク貨物輸送における我が国産業の国際競争力を強化し、我が国での産業の立地と雇用を確保する。
2)現状の課題・問題点
・世界人口が68億人にも達する昨今、資源、エネルギー、食糧といった国際バルク貨物の需給が逼迫し、世界的な資源獲得競争が起こりつつある。また、海上輸送の世界においても、大量一括調達によるスケールメリットの追求の観点から、船舶の大型化が進展している。こうした中、中国や韓国等の近隣諸国では、旺盛な消費に対応するため、大規模で高規格な物流機能の提供に邁進するとともに、大胆な優遇措置等による海外企業の誘致に国を挙げて取り組んでいる。
・ 一方、四方を海に囲まれた「海洋国家日本」においては、国民の暮らしに不可欠な食糧の6割、エネルギーの9割を海外に依存しており、日本の国力の源泉である製造業等の国内産業にとって不可欠な資源等を安定的かつ安価に確保することは、我が国にとって最も基本的な課題の一つである。こういったバルク貨物の輸送は、価格に占める輸送費の割合が高いことから、大型船舶の活用等による海上輸送コストの削減が直ちに資源買い付けにおける価格交渉力の強化につながり、安い資源価格に支えられて生産品の価格競争力を高めることに直結するという特徴を有する。
しかし、こういった資源、エネルギー、食糧等の国際バルク貨物の輸入に関し、我が国の港湾政策は個々の企業の近代化・合理化を促進する観点からの支援に止まっており、経済的安全保障等国家的な視点や関連産業全体の国際競争力強化といった観点からの政策は必ずしも十分に講じられていない。
・ また、我が国の港湾施設は、その多くが戦後の高度成長期に作られたものが多く、陳腐化・老朽化等の進行により、世界的に進む船舶の大型化に十分に対応できていない。
・こういった状況を放置し、物流のコスト・サービスの水準が改善されない状況が続けば、企業や国民生活にとって大きなコスト高となる。その結果、企業は生産拠点の海外への移転を一層進めざるを得ず、これまで我が国経済を支えてきた国内産業や雇用を守れなくなる可能性すらある。
3)課題に対応した政策案
日 当面扱うべき国際バルク貨物として、穀物(とうもろこし、大豆)、鉄鉱石、石炭とすることを国際バルク戦略港湾検討委員会において選定済。
月 国際バルク貨物輸送については、穀物、資源といった貨物ごとにその荷主のおかれる競争環境などから事情がまちまちであり、それぞれに効果的な対応施策を精査していく必要がある。そのため、平成22年末ごろに、「選択」と「集中」に基づいた国際バルク戦略港湾の選定を行うとともに、国際バルク貨物の大量一括調達のための企業連携を促進する。(平成22年度「産業物流高度化を推進するための社会実験」も活用)。
上記の施策を踏まえ、その後の「国際バルク戦略港湾」としての整備や全国でそのメリットを享受できるよう必要な対応を展開していく。
[クリアすべき問題点]
具体的には、以下の諸点をポイントとして、必要な政策を展開していく。
(1)輸入の効率化のための企業連携の促進
・現行の商取引等の改善を促すための取り組み。
日 複数の企業が岸壁や荷役機械を共用化し、大型船の一度の着岸で複数企業に輸入物資を配分する
月 国際バルク戦略港湾政策の効果を幅広く裨益させるため、異なる企業の拠点間での複数寄港を実現する
火 コールセンター15での小口荷主への内航フィーダー輸送サービスを促進する
(2)大型船に対応した港湾機能の拠点的確保
・現在就航している、または今後登場する、最大級の輸送船が満載で入出港可能な港湾施設を、対象品目に応じて、国際バルク戦略港湾に整備するとともに、大型船への対応とターミナル全体の運用効率改善のため、荷役機械の高規格化の促進と、サイロ・野積み場等保管施設の容量・機能確保するなど必要な措置
(3)「民」の視点での効率的な運営体制の確立
・民間企業が効率的にオペレーションを行いうる新しいスキームを構築。
(4)船舶の運行効率改善のための入出港制限の緩和等
・気象や航行に係る情報提供網の充実など十分な航行安全対策を講じた上で、夜間入港を可能とする措置等に取り組む。
3.旅客
1) 将来の姿、指標
・瀬戸内海等の豊かで風光明媚な自然や、個性的な文化、歴史遺産、風土等の活用により、海外のクルーズ客にとって魅力的な寄港地を形成し、世界のクルーズ船が我が国に多数寄港するとともに訪日外国人が増大し、我が国における観光立国の実現に貢献できるような港湾サービスを目指す。
・旅客船やフェリーの安全かつ安定的な入港が確保され、乗船客の快適な港の利用が実現することで賑わいのある港湾空間を形成し、港湾訪問客数の大幅な増加を目指す。・四面環海の日本においては、海も海外との交流にとって重要なルートであり、観光振興策とあいまって、海のルートによる訪日外客数増大を図る。
2)現状の課題・問題点
・入港時の手続に時間がかかる、旅客船の着岸する岸壁周辺に貨物が積まれている、あるいは岸壁の延長・水深不足等により大型旅客船が安全に入港できない等、旅客船、フェリーの利用客や船社にとって、我が国の港湾は、快適で安全な利用が可能なものとなっていない。
特に、我が国における観光立国の推進のためには、世界各国からアジアに来訪するクルーズ船の誘致に向けた取組を進めることが重要であり、アジア諸港に対して国際競争力を有するような、旅客や船社にとって魅力的な環境の形成が必要である。
3)課題に対応した政策案
上記の問題に対して、以下の諸点について、ハード・ソフト両面について必要な施策を行う。総合調整が必要な問題については、関係府省や港湾管理者、地元自治体、関係事業者、市民等が連携できるような体制づくりを行い、総合的に取り組む。また、観光振興策に対応し、観光関係事業者等と連携しつつ旅客利便の増進を図る。
日 快適な利用のためのクルーズ専用ターミナルの確保等、港湾内での旅客利用と貨物利用との分離
月 入港時のCIQ16等の諸手続の迅速化・円滑化
火 旅客への情報案内施設や快適な上下船のための乗降施設、下船後に利用するチャーターバス等のための十分な駐車場等、旅客の快適な利用のためのターミナル機能の充実
水 大型旅客船等の荒天時における安定的な入港を可能とする港湾の静穏性等の確保
[クリアすべき問題点]
・関係する諸手続の見直しや、そのための関係府省間での連携・推進体制の構築
・快適性や安全性確保のために必要な施設整備の推進
・各港での関係者間によるクルーズ振興の取組のための連携体制の構築
監.海運力の発揮
外航海運は、港湾インフラと並んで我が国の海洋インフラの重要な柱であり、日本商船隊の国際的な活躍は我が国の経済成長にとっても大きなプラスである。ただし、日本商船隊は、国際競争力のある民間企業であり、港湾と異なり直接的に政府が必要とされる産業分野ではない。
しかしながら、現状では、外航海運の分野は国際的な税制競争、制度競争の様相を呈してきており、日本商船隊が本来の力を発揮し、自立的な競争力を確保するためには、適切な政策対応が求められている。それは、具体的には競争条件が均等化するような税制の実現であり、規制改革等民間の意欲を高める政策である。
このような政策により、世界市場の中で、輸送サービスの質、安全性のみならず価格競争力の面でも選ばれる商船隊となれば、
○ 外航海運は成長産業のひとつとして、我が国の経済成長に大きく貢献することができる。
○ また、高質で安価な輸送サービスを提供することができれば、製造業等にとっては大きなプラスであり、その点からも日本の成長に貢献することができる。
○ さらに、クルーズ等の旅客輸送の増加策が進めば、観光振興、地域振興にも貢献できる。
1)将来の姿、指標
・国際的に劣後する競争条件を整備することで、世界のユーザー(荷主)から選択される日本商船隊を目指す。世界の海上物流における日本商船隊のシェア(トン数ベースで約11%)を今後も維持し、さらには向上を目指す。
※海運分野成長について取り上げると、世界の海上荷動き量は、過去10年間で年平均4%の伸びを示しており、そのトレンドでシェアを維持するだけでも、10年後には、売り上げが貨物量に比例すると仮定すれば約1.5倍(約5.6兆円→約8.4兆円)、さらに、船隊拡充の投資等を含めると、4兆円程度の市場規模の拡大が見込める。
2)現状の課題・問題点
・外航海運については、日本の外航海運税制が、トン数標準税制、償却方法、登録免許税、固定資産税など諸外国と比較して負担が重い状況である。例えば、トン数標準税制については、諸外国では全船への適用が認められているのに対し、日本では、自国籍船(日本商船隊の約4%)のみが対象とされ、また、固定資産税については、諸外国の多くが、移動体の償却資産について非課税なのに対し、日本では移動体の償却資産まで課税されているなどの大きな隔たりがある。
また、世界の海上荷動き量が増大する中で日本商船隊はシェアを徐々に落としている。日本商船隊が世界市場で伍していくために、規制改革や税制改革により、外航海運企業や外航船主が内部留保を厚くし、三国間輸送における集荷機能の強化、海運ネットワークの充実、さらには船隊増強への再投資につなげられるようにしていく必要がある。
・海上輸送は日本のライフラインであり、経済安全保障上重要という観点もあるが、日本籍船・日本人船員は最盛期と比較して、それぞれ1,580隻(72 年)→98隻(08年)、56,833人(74 年)→2,621人(08 年)に大きく減少している。
3)課題に対応した政策案
日 日本の外航海運関係税制の戦略的見直し
・トン数標準税制を諸外国並みに拡充
・船主に対する船舶の特別償却制度、買換特例制度の維持・拡大
・船舶に係る登録免許税、固定資産税の徹底的軽減
※日本の成長に貢献し、かつ日本商船隊が世界をリードできるよう競争力を高める観点から税制のあり方を見直す。その際、日本籍船の増加を促しつつ、日本籍船のみならず日本商船隊の競争条件の均衡化を図る。
月 日本商船隊の中核である日本籍船の増加に向けたコスト削減策の展開
・日本籍船に係る船舶設備・船員の資格に関する手続きの見直し
火 優秀な船員(海技者)の確保・育成のための基盤整備
・経済安全保障や陸上支援も含めた安全運航の確保の観点から、さらには、我が国外航海運企業の着実な発展を支えるため、外航日本人船員(海技者)については今後も一定規模が必要であるため、日本人船員(海技者)の雇用を推進するための効果的なインセンティブの付与
・外国人船員の有効活用を推進するため、外国の海技資格受有者を日本船舶に乗り組ませる手続き等についての運用改善
・船員という職業の意義や魅力についての認知度向上の取り組み
・即戦力を備えた新人船員の効果的な養成に向けた教育体制の拡充及び練習船隊の整備等
水 日本商船隊を支える内航海運の競争力を強化するため、低炭素化、大型化、グループ化に向けた税制の見直し
・船舶の特別償却制度、買換特例制度の維持・拡大等
・船舶に係る固定資産税の軽減等
[クリアすべき問題点]
以下の諸点は引き続きの検討課題。
・経済安全保障の観点からも、日本籍船を増加させることが必要であることについて説得力ある説明。
・ 我が国外航海運企業の競争力強化が、海事クラスターを通して地域経済・雇用にどの程度貢献するか。
企.造船力の強化及び海洋分野への展開
1)将来の姿、指標
・造船分野では技術開発等で国際競争力を強化し、その技術を基盤に国際海運における地球温暖化対策等の国際ルール化を日本が主導するとともに、広大なEEZ を有する我が国として海洋の利活用促進に貢献。
2)現状の課題・問題点
・造船業・舶用工業も世界単一市場で激しい国際競争を展開しており、今後もこの分野で競争力を確保していくために、環境性能等日本が先端を行く造船技術について、先行技術開発と国際ルールの先行提案による国際的なイニシアティブの確保が必須である。また、現在のところ生産効率は他国をリードしているが、更なる競争力の強に向けて、生産効率向上や技術開発のための企業活動の活性化が重要である。
・海洋国家日本にとって、広大なEEZ の管理・開発は重要課題。そこに、メタンハイドレートやレアメタルを豊富に含む海洋鉱物資源が眠っていると言われており、これら海底資源の商業化ができれば、日本の成長はもとより資源安全保障にも大きく貢献する。また、洋上風力発電、波力発電などの再生可能エネルギーの開発も期待されている。こうした海洋管理・開発に貢献するため、我が国造船技術や造船以外の海洋土木なども含めた総合エンジニアリングなど一層の技術の高度化が必要。また、実際の海洋管理・開発は、民間では開発リスクが過大であるため、海洋開発推進、海洋産業の育成に向けた官民の連携の仕方が課題となる。
3)課題に対応した政策案
日 革新的な船舶の省エネ技術の開発・普及を図るとともに、我が国の主導の下に、IMOにおける国際海運での温暖化防止対策等として、新造船への燃費規制・既存船の省エネ運航計画の強制化等の国際条約化を推進する。
月 造船技術者、技能者の確保育成に向けて、産学官連携の取り組み、地域における研修拠点の機能拡充を推進する。
火 造船所の競争力強化に資する柔軟な投資活動の促進。
※2~3年後の実現を目指す
水 我が国EEZ 等における海洋資源エネルギー・鉱物資源について、自律型潜水調査機器(AUV)等により迅速な海底地形調査を行い、そのポテンシャルを把握・検証し、必要な技術開発や経済評価等を実施するとともに、これらの活動を支える拠点の整備やEEZ等の監視強化を行い、権益の確保を図る。
木 我が国のEEZ の管理や開発利用に向けて、その基盤として貢献しうる造船技術の一層の高度化を図るとともに、今後拡大が見込まれる海洋掘削市場へ我が国企業の参入を支援するなど、海洋産業の育成に向けて官民連携で取り組む。
将来的な検討の方向性として
金 海洋再生可能エネルギーの開発・普及計画を策定し、技術開発支援等を実施することにより海洋の再生エネルギーの導入を促進する。
[クリアすべき問題点]
CO2排出を削減する国際的枠組みについて、主要海運国をはじめとするIMO 関係の諸外国との交渉、合意形成が必要。
国土交通省成長戦略会議報告を受けて
平成22 年5 月17 日 国土交通大臣 前原誠司
我が国は、現在、人口減少、少子高齢化、莫大な財政赤字という、三つの大きな不安要因に直面している。このような現状を踏まえれば、我が国産業についても、従来のような公共事業に過度に依存し、あるいは行き過ぎた規制に守られた内向きな産業構造を抜本的に転換し、経済を牽引する成長産業として再生することが不可欠である。
幸い、国土交通省が所管する産業分野は、優れた人材、技術力、ノウハウなど、我が国の成長に寄与するリソースを多々有している。これらのリソースを最大限に活用し、経済のパイを広げ、国際競争力を向上させることが、経済官庁としての国土交通省の使命である。
このような認識のもと、昨年10 月、国土交通省成長戦略会議を立ち上げた。当初想定した「海洋国家日本の復権」、「観光立国の推進」、「オープンスカイ」、「建設・運輸産業の更なる国際化」に加え、「住宅・都市」の5分野について、従来の発想やしがらみにとらわれず、抜本的な成長戦略の策定をお願いした。
その際、最も強調したことは、「財政出動に頼らない成長戦略」を策定することであった。このような要請に応え、成長戦略会議においては、長谷川座長のリーダーシップのもと、総花的なバラマキからの決別と集中投資(「選択と集中」)、民間の知恵・資金の活用(PPP)や規制改革を中心に据えて精力的かつ具体的にご議論いただき、ここにその成果をいただいた。
この成長戦略は、新たな国土交通行政の道しるべである。今後、直ちに実行に移していかなければならない。過去の累次の経済戦略のように絵に描いた餅にしてはならないのである。
政治のリーダーシップを発揮し、省内外の縦割りを打破し、工程表を踏まえしっかり実現していく。その際、PDCA サイクルが効果的に循環するよう、引き続き、成長戦略会議の委員には厳しくチェックしていただきたい。
最後に、これまで精力的・集中的にご議論いただいた成長戦略会議の委員のご尽力に心から感謝申し上げるとともに、ご提言を着実に実現していくことにより委員各位のご苦労に報いて参りたい。