No.193:政府が暫定措置の早期解消に努める必要あり 内閣府行政刷新会議の規制・制度改革分科会が第一次報告書

平成22年6月17日(木)Vol.193

政府が暫定措置の早期解消に努める必要あり

内閣府行政刷新会議の規制・制度改革分科会が第一次報告書

 
内閣府の行政刷新会議は6月16日、『規制・制度改革に関する分科会第一次 報告書』をまとめた。同分科会(大塚耕平分科会長/内閣府副大臣)は今年3月29日の第1回以降、4月30日に第2回、6 月7日に第3回の会議が開かれ、その結果が今回まとめられたもの。同分科会はグリーンイノベーション、ライフイノベーション、農 業の3ワーキンググループ(WG)と、その他の分野に分かれて規制・制度改革に関する様々な問題が討議されたが、その他の分野では、『各 省庁が取り組む規制改革事項・対処方針』として「物流部門」の海運関係では 、日内航海運暫定措置事業の廃止月外航海運に関する独占禁止法適用除外制度の見直し、が取り上げられた。

今回の報告書で暫定措置事業については、日22年度以降、同事業の解消まで の資金管理計画を毎年度作成・公表する月同事業の早期解消に向けた方策の結論を22年度に出す、とした上でさらに分科会・WGの考え 方として、納付金制度が競争制限の要因になっていると指摘しながら、「政府として同事業の早期解消に努める必要がある」と結んでい る。

同報告書から海運関連の2項目を抜粋すると次の通りである。

【内航海運暫定措置事業の廃止】

◇対処方針

国土交通省において、日本内航海運組合総連合会と協議の上、毎年度、内航海 運暫定措置事業の解消までの資金管理計画を作成・公表する。<平成22 年度開始> 

また、船舶の新規参入・代替建造の障害を取り除くべく、当該事業の早期解消 に向けた方策について検討し、結論を得る。<平成22 年度検討・結論>

◇当該規制改革事項に対する分科会・WGの基本的考え方

・同事業が終了するまでの、今後の見通しがついておらず、今後の建造状況の如 何によっては、相当程度の期間を要するものと考えられる。

・①納付金制度により競争が制限的(新規参入や代替建造の障害)になっている こと、②(独)鉄道・運輸機構の借入金に政府保証をつけていること、③モーダルシフトの推進、省エネ船の導入を促進させる 必要があることから、政府として早期解消に努める必要がある。

【外航海運に関する独占禁止法適用除外制度の見直し】

◇対処方針

国土交通省は、荷主の利益、日本経済への影響、諸外国の外航海運に係る独占 禁止法適用除外制度に係る状況等を分析、検証し、我が国の同制度の見直しについて、公正取引委員会と協議しつつ、引き続き検討を行 う。<平成22 年度 検討>

◇当該規制改革事項に対する分科会・WGの基本的考え方

・(適用除外制度廃止のメリット)

外航海運に係る船社間協定により海上運賃は高いレベルにとどまっているおそ れがあり、日本の製造業の競争力、船社の競争力にも影響していると考えられ、適用除外制度の廃止によって、海上運賃の引き 下げ等によって需要者の利益になる、船社の競争力の向上にもつながるとの指摘がある。

・(適用除外制度のデメリット)

外航海運に係る船社間協定は利用者の不利益となっているおそれがあると考えら れ、特に中小の荷主が不利益を受けているとの指摘もある。例えば、アジア域内の航路安定化協定ガイドラインに基づくTHC(ター ミナル・ハンドリング・チャージ)に関して、日約2倍の値上げが、月算定根拠が不明のまま、火一方的に荷主に対して通告されており、ガ イドラインに実質的な拘束力が認められるのではないかとの見方がある。また、平成18 年12 月に公表された公正取引委員会の研究会報告書においても、「運賃以外のサーチャージに関する船社間協定や協調的な運賃引上げ(運 賃修復)には実効性があるが、船社の実コスト以上に請求している可能性があり、また、算定根拠が不明確であること、一方的 に通告されるとの荷主の意見があること等から、荷主(利用者)の利益を害しているおそれがある」と指摘されている。

(参考:サーチャージ改訂があった場合の船社からの提示方法(欧州航路及び北 米航路))

fig1

※ 平成18 年3 月に実施(発送数1 社、回収数1 066)

(参考:各航路において荷主が必要と考える仕組み)

fig2

※同上

・(適用除外制度廃止のデメリットに対する見解)

(1)適用除外制度廃止により、定航各社の日本直航寄港サービスの縮小が加速 化するとの見解については、寄港サービスの減少は、適用除外制度の有無ではなく、日本の港湾の国際競争力や荷主の需要の問題であると の指摘がある。この点、欧州委員会は、適用除外制度の廃止により船社のサービスの品質及び技術開発が改善され、ひ いてはEU域内の産業の国際競争力が向上するとの見通しを示している。

(2)独禁法適用除外制度の廃止は、独占・寡占企業の市場支配力の強化を助長 する恐れがあるとの見解については、そもそもEU では適用除外廃止前から市場の寡占化が進んでいるとの指摘がある。また、仮に独占・寡占につながるとしても、その弊害は他の産業分野 と同様に競争当局による企業結合規制や違反事件審査によって対処可能であるとの見解がある。

(3)適用除外制度を廃止した場合、船社と荷主の対話や調整の場もなく、荷 主及び消費者が不利益を被る状況が生じうるとの見解については、上述のとおり、そもそも外航海運に係る船社間協定は利用者の不利益と なっている、特に中小の荷主が不利益を受けているとの指摘がある。また、船社と荷主との間で対話の機会は形式的なもので、実際は運 賃・サーチャージについて一方的通告によるとの荷主の声がある、そもそもカルテルがあるから協議が必要になったのであり、カ ルテルがなければ通常の業界と同様、各社で自助努力で交渉を行って価格を決めることであるとの指摘がある。

・(結論)

カルテルは通常の業界では規制されており、他の産業分野においてカルテルが 摘発された場合課徴金が課され、場合によっては刑事罰の対象となることなどに鑑み、外航海運業界についても、適用除外制度 を維持すべき理由がなければ、制度を廃止すべきものと考えられる。これについて、現在の適用除外制度については、上述の通 り利用者の不利益となっているおそれがあると考えられるなど制度を見直すべきとの見解がある一方、適用除外制度を見直すことにより日 本寄港サービスの縮小が加速化するおそれがあるなど慎重な意見もみられることから、更に詳細な検討を行う必要があると考えられる。

第一次報告書の取りまとめにあたって

平成22年6月15日

規制・制度改革に関する分科会

分科会 長 大塚耕平

1.分科会としての基本的認識

3月29日に発足した規制・制度改革に関する分科会(以下、分科会)におい ては、下記のような基本的認識の下、鋭意検討に取り組んできた。

国民生活や経済活動に影響を与える規制・制度について、問題点や見直すべき点 の指摘がなく、社会全体が良い方向に向かっている、あるいは活性化された状態が続いているということであれば、特段の改革 の必要性はない。規制・制度の監視・運営は、所管行政当局に任せておくことが合理的な対応と言える。

ところが、現実には必ずしもそういう状況になく、社会全体の閉塞感、国民生 活に対する不安、経済活動の停滞等が問題視されていることから、そうした事象に関連する規制・制度については、その実情の 検証とともに、国民生活の安定や経済成長等に資する見直しと改革が必要である。

規制や制度は、政策目的に対する政策手段であり、両者(目的と手段)の 間には整合性と合理性が担保されていなければならない。

以上のような基本的認識の下、分科会では、日旧規制改革会議の提言、月「国 民の声」に寄せられた提案、火新成長戦略に関連して提示された提案、水分科会・WG 委員からの提案を抽出母体として、検討対象事項を選定した。そのうえで、6 月を目処に一定の結論を得ることを目標にして検討を開始した。

検討に際しては、上述のとおり、「規制・制度は本来、国民生活の安全性や利 便性向上、民間経済の活性化推進等、所定の政策目的の実現を図るための政策手段である」との基本的認識の下、具体的には下 記の視点等を踏まえて検討を進めた。

(1)利用者(需要サイド)の立場から見て、多様で質の高いサービス等の提 供を妨げているような不合理な規制・制度はないか。

(2)事業者(供給サイド)の立場から見て、新たな事業者の参入や、事 業者の創意工夫の発揮を妨げているような不合理な規制・制度はないか。

(3)許認可や各種申請等に係わる諸手続等が、国民に過度な負担をかけた り、行政の無駄や非効率を生んでいるような不合理な規制・制度はないか。

(4)国民全体の利益に資さず、特定のステークホルダーの利益のために温存 されている不合理な規制・制度はないか。

2.検討経過と主要分野等に関する考え方 

分科会では、医療、農業、環境を主要な検討分野とし、21 回の諸会合(分科会3回、WG12 回、サブグループ等6 回)に加え、事務レベルでの所管府省庁等との協議も重ね、4 月30 日に「中間段階の検討状況」を取りまとめて公表した。

取りまとめに当たっては、主要分野に関して、以下のような問題意識を踏ま え、個別項目の検討を行った。

(医療)

日本の医療は、今日、様々な面で問題を抱えている。国民に対して、質が高 く、安心、安全な医療を提供するとともに、そうした状況を実現することで、海外に対しても「開かれた医療」を提供していくことが、日 本の医療政策の責務と考える。わが国は「内外に開かれた医療」を実現する方向で、改革に取り組む必要がある。

(農業)

農業についても、様々な問題を抱えている。日本の農業を産業として強くする とともに、安心、安全な食料品の提供、自給率の向上を図るために、現在の農業生産法人や農地に関する規制・制度の迅速かつ 的確な改革が必要である。また、農業全体に深く関っている農協や系統金融機関のあり方についても、改革の余地が大きいと認識してい る。

(環境)

環境については、温暖化ガス削減に向けた日本の貢献を進めるために、自 然エネルギーの利活用に資する方向で規制・制度の見直しを進めるべきと考える。また、環境対策や環境技術の向上は、日本の 産業競争力強化にも資することから、この分野の規制・制度改革には積極的に取り組むべきである。

上記 分野に加えて、都市開発、運輸、金融等、あらゆる分野で現行の規 制・制度の検証と、その結果として改革が急務の事項が数多く存在している。分科会では、可能な限り、そうした事項に対しても検討を加 えた。

「中間段階の検討状況」を公表した後は、事務レベルでの所管府省庁等との累 次に亘る協議、及び担当政務による所管省庁政務との累次に亘る交渉、調整を行った。

その結果、検討項目の「対処方針」について、所管府省庁等と合意が得られた ものに関して、本報告書にとりまとめた。今後、本報告書は行政刷新会議に提出するとともに、「対処方針」については政府と しての方針として確定するために、その内容について閣議決定を行うとともに、内閣府がその実施状況に関するフォローアップを行う。

検討項目の中には、所管府省庁等との間で意見の一致を見るには至らず、分 科会としての問題提起にとどまるものもあるが、改革が進捗しなかった過去の経緯を踏まえて考えると、総じて言えば、今回の検討作業で は、改革に向けた具体的な方針策定と意識改革が大きく前進したものと評価できる。

3.今後の課題(規制・制度改革全体に対する問題意識) 

規制・制度改革については、今後も不断の取り組みを継続することが必要である。

そうした中で、今回のように分科会における特定分野、個別事項についての検討 というアプローチは引き続き有効と考えられる。

その一方、分科会での検討を待つことなく、所管府省庁等が自発的に改革に取 り組むことがより望ましい対応であることは言うまでもない。

さらには、今回は実施に至らなかった公開討議(規制仕分け)を行うことも、今 後の改革の具体的手法のひとつとして活用可能であろう。

また、現在、各府省庁等で規制・制度の自己評価作業を進めているが、そ もそも基本的な情報として規制・制度の全体像が常に捕捉可能な状況となっていることが必要である。

当該情報を踏まえつつ、広範多岐にわたる規制・制度の改革について、不 断の検討が可能となるようなプラットフォームとプロセスが整備されることが肝要である。

以上のような認識の下、規制・制度改革に関する今後のポイントとして、以 下のような点が重要と考える。

(1)規制・制度に関する情報公開

各府省庁等の規制・制度の全体像についての十分な情報が開示されていること が、規制・制度改革を体系的に行っていくことの前提条件と言える。したがって、各府省庁等には一定の基準に従って、所管する規制・制 度に関する整理を行い、毎年度公表することを義務づけることが必要である。

その場合、規制・制度の整理の仕方、切り口の基準を共通化することが求めら れる(例えば、規制の目的、主体、手段等)。

また、毎年度各府省庁等が整理、公表を行うということであれば、「規制制度 白書」(仮称)として定例的に刊行することも一案である。

(2)改革の視点(背景、問題意識、理由) 

規制・制度改革には不断の取り組みが必要なものの、改革の視点は時期や背景 によって多様であることが想定される。

したがって、改革の視点についても、折々にコンセンサスを形成しておくこと が必要である。

当該コンセンサスを毎年度の「規制制度白書」に明記することも一案であり、 その場合には、白書に毎年の改革方針が記載されるイメージとなる。

(3)規制・制度改革の推進主体(プラットフォーム) 

規制・制度改革の推進主体、プラットフォームをどうするかということも、重 要なポイントである。

一義的には所管府省庁等ということになるが、そうした考え方で臨んできた結 果として、規制・制度が硬直化し、様々な問題につながってきた経緯がある。

したがって、所管府省庁等とは別途の横断的なチェック体制または組織を設け ることも一案ある。その場合、今回と同様に、行政刷新会議の下に置かれた分科会を有効活用することも考えられる。

また、今回の分科会の検討過程では実施しなかった公開討議(規制仕分け) も、推進主体の選択肢として想定可能である。

なお、上記は全て規制・制度の改革(廃止を含む)の場合を想定しているが、 規制・制度を新設する場合の審査を担う主体についても、同様の考え方で対応することが想定される。

(4)改革のための基本原則

規制・制度改革を行うに当たり、具体的にどのような規制・制度を対象にするか を判断するための基本原則を確立しておくことも必要である。

現時点で想定可能なものとしては、第1 に「サンセット原則」。一定年限が経過した規制・制度については、必ず継続や改革の要否等を検討するプロセスを経ることとする。

第2 に「整合性(合理性)原則」。規制・制度は、特定の政策目的に対する 政策手段という関係にあり、目的と手段の整合性、合理性が担保されていなければならない。

第 に「ネットベネフィット原則」。規制・制度にとどまらず、いかなる 政策にもプラス面(メリット)とマイナス面(デメリット)が共存している。そうした観点から言えば、規制・制度のプラス面、マイナス 面を総合的に評価し、ネットベネフィットが確保されるような内容でなければ、当該規制・制度は存続の合理性に欠ける蓋然性が高い。

第 に「国際標準原則」。各般の規制・制度について、国際標準的な規格 や内容が明確に定まっているものに関しては、それに準拠することが必要である。もっとも、その場合でも、国内事情を十分に勘案するこ とが前提となる。国際標準の名の下に特定のステークホルダーの利益に資する内容が規定されることもあることから、「整合性原則」や「ネッ トベネフィット原則」との平仄を図らなくてはならない。

(5)改革プロセスの整備と紛争処理 

改革プロセスの整備については、上記(3)の改革の推進主体(プラット フォーム)と関係する。

改革プロセスを所管省庁で担う場合には、日説明責任の厳格化(行政評価法に 基づく規制の影響分析<RIA>の充実等)、月ノーアクションレターの実効性向上等、改革プロセスの公正性、透明性、有効性、合 理性等を担保することに対する工夫が必要である。

分科会で担う場合にも、今回の検討プロセスを参考にして、その公正性、透明 性、有効性、合理性等を担保することが必要である。

公開討議を行う場合にも、同様の視点から具体的な運営方法等を検討しなけれ ばならない。

なお、規制・制度の内容、改革に係る紛争処理手続の充実も求められる。

バックナンバー>>